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■小嶋千鶴子さんが到達したパラミタの世界

Dsc_0053  伊勢にやってきて2年半となったが、来月この地を去ることになった。多くの人にどこがよかってですかと聞かれる。自然でいえば、伊勢神宮の杜と熊野古道の風景となる。人間がつくったものでいえば菰野(こもの)町のパラミタ美術館の存在が圧倒的だった。

パラミタはジャスコ生みの親である岡田卓也氏のお姉さん、小嶋千鶴子さんが私財でつくった美術館である。陶器収集が趣味で40年間に集めた作品を中心に年に4回ほどテーマごとの展示を続けている。

 パラミタのすごさはいくつもある。圧巻は常設展となっている故池田満寿夫の「般若心経シリーズ」だ。池田満寿夫といえば、西洋風の版画というイメージが強かったが、晩年、焼き物に没頭してアジアへの回帰を果たした。般若心経の一字一字を刻み込んだ陶器や金色に焼き込んだ仏頭などの作品群が全体で一つのイメージを沸き立たせる。

Dsc_0044  訪れた多くの人は、展示室の入口に立った瞬間にまず「なんだこれは」という強い衝撃に立ちすくむだろう。僕は思わず「こりゃ曼荼羅だ」と思った。

 館員に聞くと「小嶋さんがひらめいて時々配置換えをする」のだそうだ。一つひとつの作品をていねいに展示して見終わったときに全体でイメージを抱かせるのがこれまでの美術館の展示だったとすると、この「般若心経シリーズ」は作品群を見渡したその瞬間にひとつのイメージをひらめかせる空間となっている。

 亡くなった池田満寿夫さんがこの展示をみたら、「いやはやまいった」とうなるに違いない。「般若心経シリーズ」は当然、作品群として制作されたはずである。だが、暖かい色調の照明の下で何百にもおよぶ焼き物が一つの空間でこうも息づくとは考えなかっただろう。

 美術家への評価は多くあるだろう。鑑識眼などという言葉もあるが、あまり好きでない。本物かどうかを見分ける能力などというものはどうもあやしい。長年その世界で飯を食っていればそんなものだれにでも身に着くだろう。

 心を動かすものが芸術なのだとすると、自然に勝るものはない。人間が造形する美の世界では、その評価はどうも個々の作品の価値で終わってしまうきらいがある。群盲象をなぜるの感がある。

 般若心経は世界で一番短いお経で、仏陀の教えを凝縮した世界であるとされる。僕は最後まで読んだことはない。たとえ読んだとしても意味が分かるまで数年の年月を要するだろう。

 仏教でいえば、お寺の伽藍配置や、堂内の仏像や壁画はそれぞれに仏の世界として表現されたものなのだろうと思っている。もしそうだとするとパラミタ美術館は小嶋千鶴子さんが一人で生み出した仏の世界となる。

 パラミタは般若心経の「波羅蜜多」をカタカナで表したものなのだそうだ。小嶋さんに昨年お会いしたとき90歳だった。(2006年6月18日)

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